FDGは前記した通りブドウ糖に似た物質で、がん細胞によく集まります。がんは活発に自分の細胞を増やて大きくなるため、たくさんのエネルギーを必要とし、正常細胞の3〜8倍のブドウ糖を摂取します。PET検査はこの性質を利用し、(1)他の検査でみつかった腫瘍が『がん』か(2)広がりはどれくらいか(3)再発・転移の有無(4)治療効果はどうか−などを調べます。
 2009年現在、全国で約60施設がPETを使ったがん検診を実施していますが、がん検診の有効性の評価には非常に長期間の追跡データが必要なため、まだ有効性を示す充分なデータがそろっていないのが現状です。しかし、全施設でいろいろながんが発見されています。公式に統計を出している施設は少ないですが、発見率は概ね1〜2%です。
これは受診者100人のうち、1人か2人にがんが発見されていることになります。他の検診と比較すると10〜50倍の発見率です。発見されたがんは多岐にわたっていますが、肺がん、甲状腺がんや大腸がんが多くを占めます。

がん検診目的にPETを行う場合、PETの有用性は以下のようになります。
既にがんと診断されている方や、がんを疑われている方の場合、必ずしも以下の通りにはなりませんのでご注意ください。
  • PET検診の有用性が高いがん(必ず見つかるわけではありません)
    • 頭頚部がん(鼻や喉のがん)、肺がん、乳がん、膵臓がん、胆嚢がん、大腸がん、卵巣がん、子宮体がん、悪性リンパ腫
    • このうち、肺がん、乳がん、大腸がんは、PETよりも精度の高い検査として胸部CT(肺がん)、マンモグラフィ/乳腺エコー(乳がん)、大腸カメラ(大腸がん)が存在しています。また、生理中は子宮体がんの診断が難しくなります。
  • PET検診で写ることもよくあるが、写らないことも多いがん
    • 甲状腺がん、胃がん、前立腺がん、子宮頸がん
    • 甲状腺がんには頚部エコー検査、胃がんには胃カメラ、前立腺がんには腫瘍マーカー検査、子宮頚がんには細胞診が、それぞれ有用です。
  • PET検診の有用性が低いがん(場合によっては見つかることもあります)
    • 食道がん、肝臓がん、腎がん、膀胱がん、脳腫瘍
    • 食道がんには胃カメラ、肝臓がんは腫瘍マーカー検査や腹部エコー検査、腎がんは腹部エコー検査、脳腫瘍は頭部MRIが有用です。膀胱がんは頻度が低い上に単一で十分な精度を持った検査がなく、膀胱がん検診はあまり一般的ではありません(何らかの理由で膀胱がんが特に心配な方は、泌尿器科医師にご相談ください)
※なお、上記の検査のうち全てを当院で行っているわけではありませんので、詳細は当院検診センターにご確認ください。
 PETは多くのがんの発見に有効で早期がんを見つけられるケースも多いのですが、残念ながら不得意分野もあります。
まず、小さなもの、特に1cm以下の腫瘍は機器の限界で写らないことがあります。従って、超早期がんを見つけることができるというのは過大広告です。
また、がんのできる場所によって、PETによる見つけやすさが大きく異なり、あらゆる検査の中でPETが最も有用ながんがある一方で、PETではほとんど見つけられないがんもあります。PETで見つけにくいがんを重点的に調べるためには、ほかの検査を組み合わせることが必要となります。
 FDGはがんだけでなく炎症にも集まることがあります。集積部分が本当にがんなのかどうかを判別するためには、ほかの体の情報(熱や痛みといった炎症の有無など)や、ほかの画像などを参考にします。一部の甲状腺腫瘍や大腸ポリープなどの良性腫瘍にも集積することもあり、これらの判別には専門的知識が必要となります。
当院は経験豊富な専門医が診断し、できる限りあいまいにせず判断しますが、どうしても区別のつかないケースが出てくることはご理解ください。
 すべての集積が『がん』ではないので、まずは落ち着いて、次に何をしたら良いか医師と話し合いましょう。多くの場合、集積が何を意味しているのか、ほかの方法で確認することが必要となります。
PET検査では正確な位置がわからないこともあるので、CT・MRI検査が必要となることもあります。PET/CT検査では簡易的なCTを同時に撮影するので、位置や病気の性質についてのより正確な情報を得ることができますが、さらに正確性を上げるために造影CTなどの検査が必要になる場合もあります。

繰り返しになりますが、すべての集積が『がん』ではありません。異常があったと言われても、落ち着いて医師の話を聞いてください。仮にがんであっても治療可能な場合は多いので、それぞれの専門医に相談し冷静に対応してください。
 福島の原発事故以来、放射線の健康被害についての情報が数多く流れました。その中には、医学的にありえないほど危険性を誇張した誤情報も多く、多くの人が放射線のことを冷静に判断できなくなっています。実際には100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、健康に影響があるかどうか分からないほど影響は小さいのですが、いずれにせよ放射線は浴びないに超したことはありません。
 注射の量、体の状態にもよりますが、PET/CT検査ではないPET検査で浴びる放射線は2〜4ミリシーベルト、PET/CT検査ではCTの被ばくが加わるため、約10ミリシーベルトです。PET-CT検査は診断精度が高いかわりに被ばくが多くなります。当院では病気を既に疑っている方にはPET/CT検査を、人間ドックは従来どおりのPET検査を推奨しています(がんがあるかないかを調べる上では、従来のPET検査でも十分な精度があります)。
 以上の通り、PET検査やPET/CT検査では少量の被ばくがありますが、PET検査やPET/CT検査の放射線によって健康被害が起きることはありません。
 最初に、自分が何を知りたいのかをよく考えてみましょう。他施設で血液検査や胃バリウム検査などをしている方や、簡単な検査で全身を検査してみたい場合はPET検査だけか、腫瘍マーカーを加えれば充分でしょう。PETで見つからないがんがあることは理解しているが、時間がないのでPETだけ受けたいという方もいるでしょう。
しかし、ほかの検査をまったく受けたことがない方、PETで見つかりにくいがんも詳しく調べたい場合は、ほかの検査を組み合わせた方が良いと考えます。喫煙歴が長い、肝炎になったことがあるなど、がんになりやすい因子を持っている方は心配しているがんを調べる検査を加えることも重要です。判断が難しければ、健診担当医師にご相談ください。
 PETはがん発見に強力な武器となります。正しい知識を持って有効利用し、健康な生活にお役立てください。
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